決勝に臨んだ2人の思い
9月12日、第1シードである島袋将のシングルス優勝で幕を閉じた『Uchiyama Cup』。この大会は現役プロテニスプレーヤーである内山靖崇が主催したもので、今年はJTA大会(JTT-1)となったが、世界への足掛かりの一つになるよう、ITF大会を目指している。
奇しくも早稲田大学のOBである島袋と、現在エースを務める白石光との対戦となった決勝だが、島袋は「先輩としての意地や、プライドを見せたいし、その中でもしっかり相手をリスペクトして戦いたい」と言い、白石は「一番対戦したかった相手。自分がどこまでできるか知りたい」と、将来のプロ入りに向けて力を試したいという思いで戦った。
2018年、全日本選手権での対戦では、6−1、7−6で島袋が勝利した。今回の決勝は6−3、6−4。「取ったゲーム数は同じですね」と白石は笑いながらも、「結局ブレークポイントすら訪れなかった。島袋さんが今戦っている場所や、やっているテニスの差がわかった。今すぐにでも練習したい」と、大きな指標になったと語る。
海外を主戦場にしており、国内大会で戦う必然性はない中、島袋も「優勝するということを自分に課し、勝たないといけない大会というプレッシャーをかけながら戦って優勝できた。これからまた、ヨーロッパやアメリカなど、レベルの高いところに参戦し、自分のレベルを上げていきたい」と先を見据えた。
ツアーレベルのボールローテーションで得られるもの
『Uchiyama Cup』は、緊急事態宣言下においても、万全の対策をすれば、大会開催は可能だということのモデルケースになったといえる。同時開催の草トーナメントや、ジュニアのレッスン会等のイベントは中止となり、無観客になったが、地元のジュニアはボーラーの経験ができたし、試合はYouTubeで生配信された。
そして、この大会には表に出てこないが、世界を目指す大会であるための、大きな特徴があった。それは“ボールローテーションの多さ”。「1試合6球を最初のみ7ゲーム、その後は9ゲームでニューボールにする」という取り組みだ。
これについて海外遠征中の内山靖崇に代わり、トーナメントディレクター代理を務めた元プロテニスプレーヤーの佐藤文平氏はこう語る。
「内山がもともと目指す運営というところで“選手目線”というものがあり、選手がプレーする環境を整えるということが我々の役割だと考えています。それは審判がつくことであったり、なるべくフレッシュなボールでプレーすることであったりします。6球7/9のチェンジはツアー基準でもあるし、ボールの摩耗が少ないので、自らの武器をより発揮しやすくなります。練習ボールも劣化していないので、高いレベルの練習ができるのです」
昨年の全日本選手権はドロー数も少なかった影響か、ボールの交換は『Uchiyama Cup』と同じ6球7/9だったが、2019年は4球7/9、同じJTT-1カテゴリーの毎日テニス選手権は2球7/9(マッチタイブレークではチェンジはなし)という現状だ。
もちろんボールチェンジが少ないことによって、ボールが飛ばなくなってから強みを発揮する選手もいるが、世界を見据えれば、それと同等の環境を提供することが望ましい。
「今回、その内山の思いにテクニファイバーさんが賛同してくださったので、実現することができました。実際の試合も、サービスを持ち味とする島袋だったり、ダブルスで優勝した柚木武であったりと、サービスゲームで自分の形がある選手が結果を出しました」(佐藤氏)
決勝に進んだ白石においても序盤のファーストサービスの確率の高さは群を抜く。その白石も「他の大会と違って、審判、ボーラー、ラインズマンがいて、ライブ配信もあるので試合している身からすると素晴らしい環境で戦える。ありがたいし、やっていて気持ちいい」と大会自体の質の高さに言及した。
多くの選手たちが「いい大会だった」「開催してくれて本当に良かった」と声を揃えた『Uchiyama Cup』は、海外基準の環境を整え、選手の価値とレベルを高めることを目的とすることにおいて、新しいベクトルを示したと言えるだろう。
記事:保坂明美 写真:長浜功明/Uchiyama Cup