日本最高峰のタイトルをかけ、選手たちが凌ぎを削る「三菱電機ビルソリューションズ 全日本テニス選手権 99th」(本戦10月4日〜13日)。10月12日は男子シングルス準決勝、ダブルス決勝の計3試合が行われた。

今村昌倫がケガを克服し、2度目の決勝へ

第4シードの今村昌倫と、第5シード田口涼太郎の準決勝は、緊張感のあるラリーの中に、高度なテクニックと展開を織り交ぜた、質の高いものとなった。

今村はクロス、田口はストレート主体でラリーを展開する。第1セットはお互いキープが続き、タイブレークで今村が先行する。

全体的に試合のペースを掴んでいたのは今村だった。自らのサービスゲームは安定しており、サービスからオープンコートへ打ち抜くパターンは完成度が高く、田口へチャンスらしいチャンスを与えない。

田口涼太郎 写真:伊藤功巳

それでも「めちゃくちゃしんどい試合だった」と今村が振り返るのは、ブレークポイントを握った場面で、そのたびに田口がライン上に落とすサービスなど、好プレーを連発してきたからだ。

第2セットは序盤で4本のブレークポイントを握ったが、全てしのがれゲームはイーブンの状態で展開する。5−5の第11ゲーム、田口のダブルフォールトからスタートしたゲームでは、今村はフォアハンドのランニングパスで会場を沸かせプレッシャーをかける。

「チャンスで相手のミス待ちとか守りのプレーになっていたので、あの場面ではより攻撃的に行くというのは意識しました」というように、引かないラリーを展開し、9本目のブレークポイントで値千金のサービスブレークを獲得。次のゲームを手堅くキープし、7−5で決勝進出を決めた。

今村昌倫 写真:伊藤功巳

昨年2月に両股関節の内視鏡手術を受け、シングルスに復帰したのは約1年前。復帰にあたり、「コーチよりも身体をケアしてくれるトレーナーが大事だと思い」小林春樹トレーナーとともに、疲労を持ち越さないトリートメントと、身体作りを並行して行なってきた。

2020年、コロナ禍にあった今大会に続き4年ぶりの決勝進出は、当時と同じ心境ではないという。

「あの時は学生で、プレッシャーなくのびのびやっていたら勝ってしまったという感じ。初めて決勝に行く感じでフレッシュな気持ちで頑張りたい」

9月にITF初タイトルを獲得し、故障前より強くなって帰ってきた今村は、もう一つの大きなタイトルへ向けてひた走る。

磯村志が伊藤竜馬に終止符を打つ

もう一つの男子シングルス準決勝は、第3シードの磯村志と負けたら引退となる伊藤竜馬の対戦となり、6-1 6-2 の圧倒的なスコアで、21歳の磯村が36歳の伊藤を退けた。

決勝進出を前にした重要な一戦であることと、引退を前にした伊藤と戦うということで「最初から最後までずっと緊張していた」という磯村。そのせいでポジションも後ろになり、あまクリーンに当たらなかった。とはいえ、持ち前の粘り強さは発揮しており、緊張を受け入れた上で「絶対に自分からはミスはしない」という心境で戦い抜いた。

握手を交わす伊藤竜馬と磯村志 写真:伊藤功巳

一方、前日は「意外と大丈夫です」と身体の状態を語った伊藤だったが、これが5試合目、2回戦以降痛み止めの注射を2本打ってきたという古傷の左ひざが、連戦の厳しさに悲鳴を上げた。明らかに動きは前日までのそれとは異なり「ダメージはあった」という。

それでも最後の試合にそれを言い訳にはしない。「全部出し切りました。最後はいろんな手を使って戦えたし、頑張ってプレーしましたし、満足はしている」

伊藤竜馬 写真:伊藤功巳

また、対戦した磯村に対しても「最後の試合にふさわしかった。全日本選手権に出ている中でもイキのいい選手。ガッツがあって、集中が高い選手なので今後の成長も見たいし、応援したい」とエールを送った。

磯村は、この試合で緊張を味わえたことは「逆に良かったかもしれない」と言い、初の決勝を戦うことに「(今村とは)ここ最近2回当たって、2つとも負けている。3度目の正直ということで、明日はリベンジして優勝したい」と目を輝かせた。

磯村志 写真:伊藤功巳

9月のITF大会でそれぞれシングルス初タイトルを獲得した上り調子の2人の対戦は、今後を占う大きな一戦となるだろう。

【三菱電機ビルソリューションズ 全日本テニス選手権 99th 10月12日の結果】

■男子シングルス準決勝
今村昌倫(JCRファーマ)[4] 7-6((3) 7-5 田口涼太郎(Team REC) [5]
磯村志(やすいそ庭球部) [3] 6-1 6-2 伊藤竜馬(興洋海運)
■男子ダブルス決勝
柚木武/渡邉聖太(イカイ/橋本総業ホールディングス) 6-4 6-7(8) [10-3] 上杉海斗/野口政勝(江崎グリコ/ONE DROP)

【10月13日の試合予定】11時スタート/有明コロシアム
今村昌倫(JCRファーマ)[4] vs 磯村志(やすいそ庭球部) [3]

記事/Tennis,jp 写真/伊藤功巳