テニスは、最も過酷な競技の一つ。
そのような言葉はしばしば耳にする。
コートに立てば、誰のアドバイスも受けずに一人で戦い抜かねばならない。しかもいつ終わるか分からぬ中、時に試合は数時間にも及ぶ。
瞬発力に持久力、腕力や体幹などの筋力に加え、高い心肺機能など、テニスは総合的なアスリート能力も求められる。
それだけではない。
ひとたび“ツアー”に身を置けば、一年中世界各地を転戦し、時差や気候、食事や文化などの環境面の変化に適応しなくてはいけない。
特に食事は、連日試合を戦う選手たちにとって、最も気を使う因子でもあるだろう。
トレーニングや栄養面の知識など、テニス選手がやるべきこと、知っておくべきことは果てしなく多い。
しかし個人競技であるテニスでは、それらの知識に触れたり、重要性への気付きを得る機会は、それほど多い訳ではない。
そのように情報に触れる機会の少ないジュニアたちを育成するため、最近ではアディダスのようなスポーツ用品企業が、トッププロが実際に行っているトレーニングなどのやり方を伝授するイベントを開催している。
果たして現在、世界で戦う選手たちは、いつどのような形でトレーニングや身体のケアの仕方を学んだのだろう?
そして実際にツアーに身を置く彼/彼女たちは、コート上の相手以外に何と日々戦いながら世界を転戦しているのだろう?
今回は穂積絵莉(橋本総業)に、自身の経験を語ってもらった。
インスタント食品だけで過ごした時も。食の安全優先で!
――いわゆる“トレーニング”を始めたのはいつ頃でしょう?
穂積:私はパームテニスアカデミーの杉山(芙沙子)コーチの指導を受けていたので、中学生頃から体幹トレーニングは良くやっていました。
逆に腕立て伏せやウェイトのような筋トレは、ジュニアの頃はあまりやっていなかったです。
試合前や練習前の準備の意識は強かった方だと思います。
ジョギングやストレッチ……ダイナミックストレッチのやり方などを教えてもらっていました。
――“身体のケア”はどうでしょう?
穂積:そうですね……わたしは17歳の時にプロ転向したのですが、プロになりたての頃はまだ自分も若かったので、どれだけテニスをやっても疲れを感じなかったんです。
高校2年の時にGプロジェクト(※リオオリンピックでのメダル獲得を目的とした日本テニス協会主導の選手強化プロジェクト)に選ばれた時も、既にプロで活躍されていた(奈良)くるみちゃんや(土居)美咲ちゃんたちがクールダウンする姿は見ていたのですが、わたし達はコーチ達に言われるからやっていたという感じで、その重要性はあまりわかっていなかったですね。
――最近は、疲れを感じたりケアの重要性を感じるようになったんですか?
穂積:それはここ数年、凄く感じます。
以前はオフの日に朝から晩まで遊んでも、次の日も朝から余裕で練習できたんです。
でも今は、オフの日は朝起きられない(笑)。
次の日に朝から練習があると思ったら、夕方には切り上げてゆっくりしたり。
お風呂に入るだけでも、翌日の疲労度は減ると最近は感じます。
――穂積さんは、ケアトレーナーにツアー帯同してもらうことも多いですよね?
穂積:それは杉山コーチに相当言われました。
(杉山)愛さんも、ケアトレーナーの帯同を最優先していたと言ってましたから。
わたしがトレーナーに帯同してもらうようになったのは、いつ頃からかな……プロになって1~2年経った頃から、少しずつ増やしたと思います。
しかもわたし、身体に対して鈍感で(苦笑)。
自分がどれくらい疲れているか分からない方なので、感じた時には既に相当疲れがたまっているようなんです。
そのあたりも、トレーナーさんに教えてもらいながら自分で意識的に感じるようにしたら、徐々に分かるようになりました。
――食事の面はどうでしょう? 気をつけていることはありますか?
穂積:栄養学などの細かい知識は、まだそんなにある訳ではないですが、ジュニアの頃からなんとなく
「試合前には直ぐにエネルギーに変わるものを食べなさい」とか
「試合後にタンパク質を多く取りなさい」と言われたので、その意識はずっと続いています。
ナショナルチームでも講義があり、一食の中でどの栄養素をどれくらい取るべきだと教わったりします。
――でも遠征中は食べ物に気をつけたくても、気をつけようがないところもありますよね?
穂積:そうなんですよ!
そもそもテニスって、試合時間も朝早かったり、凄く遅くなったりするじゃないですか?
だから食事の時間も不規則になります。
この間も台湾の大会の時に、試合が終ったのは夜中だったんですが、お腹は減る。
でもレストランはどこも開いてないし、買い物に出かけるのは怖いし……どうすればいいの?って感じでした。
以前ウズベキスタンに行った時は、一週間日本から持っていったインスタント食品で過ごしました。
衛生面の怖さがある場所は、お腹を壊さないことが第一ですから。
その一週間前にウズベキスタンに行った日本人が、全員体調崩してたんですよ。
だからコーチからも「今週は栄養とかは良いから、とりあえず乗り切りなさい」と言われて。
(二宮)真琴と一緒で部屋もシェアしていたので、二人で日本から持っていった麺茹でて食べたり、ごはん炊いてカレーかけたり……そんなのご馳走ですからね!
カップ麺も持っていきましたが、それではお腹なんて満たされない(笑)。
毎日カップ麺という訳にもいかないし、野菜も食べられないし……。
生野菜はそもそも、海外では食べないようにしています。
なまものは、海外では基本食べないように気をつけています。大会中は絶対に食べないです。
――そのように様々な不確定要素があり時間的制約も多い中で、優先順位的に外せないことは何でしょう?
穂積:わたしは、睡眠です。
とりあえず寝る。
7~8時間は欲しいですね。
以前に一度、色々とトライしながら、いちばん起きやすい睡眠時間を探ったんです。
自分が起きたい時間から逆算して、30分刻みに8時間、7時間半、7時間……と試していったら、7時間半が一番良かったんです。
わたし寝るのが特技で、今も寝ろと言われたら寝られます(笑)。
ただ最近は寝すぎるとだるくなるので……7時間半がベストです。
気持ち的には、8時間くらい寝られるとハッピーなんですけどね!
(インタビュー&記事 内田暁)
NEXT STAGEへ上がるためのトレーニング
『ADIDAS TENNIS CHALLENGE 2017』
増田健太郎、元ナショナルチームコーチのもと添田豪、内山靖崇、穂積絵莉、吉冨愛子が指導。
11月30日(木)、これからの日本テニス界を担っていく部活生、男女28名が参加した。
『ADIDAS TENNIS CHALLENGE 2017』
記事:塚越亘/塚越景子 写真/TennisJapan