全日本選手権(10月27日から予選、30日から本戦)を前に、同じサーフェスとボールを使用し、シングルスを多く行うことを目的とした『橋本総業 みらいカップ2021』男子の部が10月21日、吉田記念テニス研修センター(TTC)で開催された。

第1〜4シードまで、上位シードが勝ち上がった準決勝は、第1シードの伊藤竜馬が第3シードの関口周一を6−0で撃破。第2シードの今井慎太郎は田沼諒太をタイブレークの末に破り決勝へ進出した。

決勝は互いのパワーがぶつかり合うラリーが繰り広げられる中、今井が自分のペースを保ちブレークを重ね、伊藤を6−2で撃破し優勝を果たした。

準優勝の伊藤竜馬、優勝の今井慎太郎、3位の関口周一(左から)

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コロナ禍で大会数も減り、実戦の機会が格段に減る中、国内トップがそれを求めて今大会出場に多く名乗りを上げたが、出場への思いと目的はそれぞれ異なる。今井、伊藤、コンソレ優勝の藤原智也、そして45歳の現役プロ、福田勝志に話を聞いた。

全日本選手権優勝を目指す今井慎太郎が味わえた独特の緊張感

全日本選手権では優勝を射程圏内に置く今井は、頻繁に海外遠征を重ねていたが、なかなか結果が出ずに苦しんでいたが、ようやく9月最終週、スウェーデンのITF2万5千ドルで優勝を果たし、それを手土産に帰国した。

「今年はツアーへの入りが悪く、1、2回戦負けが続きました。それでも我慢していればどこかで結果が出てくると信じて戦っていた中、スウェーデンの優勝でいい感触を掴むことができました」と調子が上がってきたことの喜びに目を輝かせる。しかし、ITF大会と全日本の緊張感は、また違ったものがあると言い、「だからこそ、日本で日本人選手と戦える機会はとても貴重で、いい実戦が詰めて良かった」と開催に対しての感謝を述べた。

そして「ここでの試合が、今の自分の課題を浮き彫りにしてくれました。あと約1週間、全力で取り組んでさらにレベルアップした状態で全日本へ臨みたい」と意気込みを新たにした。

今井慎太郎はスウェーデンのITFM25の優勝を携え、全日本に備える

伊藤竜馬はアメリカ遠征直前に試合勘を取り戻す

準優勝の伊藤竜馬は、ラスベガスのチャレンジャーから約1カ月のアメリカ遠征を回る直前に「自分より(ランキングが)下の選手しかいない中、取りこぼせないという緊張感で試合ができて良かった」と、独特のプレッシャーを味わえたことが、続く遠征へ向けて意味をもたらすと言う。

コロナ禍によってアジアの大会はなく、ヨーロッパやアメリカの大会も減っており、そこに選手たちが集中する。必然的にレベルは上がり、チャレンジャークラスでもトップ100位台の選手がエントリーしていることも珍しくはない。今シーズン最後の遠征に翌日出発する伊藤にとっては、ここでの結果が来年のツアー生活を左右する大切なものとなる。

「試合勘も含め、挑戦してくる相手にどうしのげるか、メンタルのコントロールなど遠征前に体験できたことは大きい。チャレンジャーではもう少しリラックスして戦えると思います」

アジアでの大会復活を待望しつつ、33歳、伊藤の挑戦はまだまだ続く。

大会の翌日にラスベガスへと経った伊藤竜馬

インカレ、大学王座予選で結果を残した藤原智也はコンソレで優勝

インカレ単複制覇、直前の大学王座予選では、24年ぶりに早稲田大学を倒すという歴史的勝利の一員となった慶應義塾大学の藤原智也は、本戦1回戦で大学のOB上杉海斗に敗れたものの、コンソレでは準決勝で竹島駿朗を、決勝では岡村一成をタイブレークで破り優勝と、今年の好調ぶりをアピールした。

「プロ選手が集まる試合は、僕のような学生にとっていい機会ですし、挑戦者の気持ちで戦えたのが、コンソレ優勝という結果につながったと思います」

 手首のTFCCを患い、昨年4月末に手術を行った藤原だが、術後1年半ほどで、好調を見せる要因は、メンタルにあるという。

「テニスの調子が大きく変わったのではなく、『勝たなくてはいけない』とか、試合中に『どうしたらいいんだろう』といった”迷い”をなくしたことが大きかったと思います。結果にこだわらず、自分のテニスを最後までやり遂げること、ポイントを取りたいというよりも目の前のボールをしっかり相手コートに入れることだけに集中していました」

コンソレの決勝では、5−4で訪れた3本のマッチポイントを岡村にしのがれ、タイブレークへもつれた。ここでは岡村に4本のマッチポイントを先に握られながらも見事な挽回劇を演じ、優勝した。

相手がプロで、ランキングが上だから…ということにとらわれず、プレーにフォーカスすることでプロにも勝てるということが、この大会でわかったことだ。

続く全日本選手権では「(相手に)怯えることはしたくない、チャレンジャーの気持ちで自分のテニスをぶつけていきたい」と、目を輝かせた。

インカレ単複制覇と学生大会で結果を残している藤原智也

27回目の全日本へ向けて…福田勝志の終わらぬ挑戦

45歳の現役プロ、福田勝志が27回目の全日本選手権出場へ向け、直前の実戦として選択したのが今大会だった。

「全日本へ向けて試合をしておきたいと思い、大会を探していたのですが、砂入り人工芝の試合しかありませんでした。コートもボールも一緒、しかもレベルが高いメンバーが出場するので、ぜひエントリーさせてもらいたいと思いました」

エントリー直後は1番アウトだったが、繰り上がりで出場が決まり、1回戦は住澤大輔、コンソレで竹島駿朗と対戦した。いずれも敗退となったが「ボールの感触が違うこともわかりましたし、1セットマッチで自分のペースに引き込むことができませんでしたが、戦えて良かった」と、率直に語る。

福田の全日本選手権へのこだわりは大きい。それは国内最高峰の舞台で、その一員として参戦できる喜びであり、心の中にいつまでもある全日本優勝という夢を追い続けられる幸せの実感だ。

「まずは一戦一戦死に物狂いで戦い、2回勝って本戦に上がること。そして楽しめたらいいですね」

穏やかな口調で話す福田だが、その心の中には消えない火が燃えている。

27回目の全日本選手権を前に参戦した福田勝志

■橋本総業 みらいカップ 2021 男子結果(10月21日)

・決勝
今井慎太郎[2](イカイ)6-2  伊藤竜馬[1](橋本総業HD)

・3位決定戦
関口周一[3](TEAM REC) 6-2 田沼諒太[4](橋本総業HD)

・準決勝
伊藤竜馬[1](橋本総業HD)6-0 関口周一[3](TEAM REC)
今井慎太郎[2](イカイ)7-6(2) 田沼諒太[4](橋本総業HD)

・コンソレ決勝
藤原智也(慶應義塾大学)7-6(8)岡村一成(橋本総業HD)

・コンソレ3位決定戦
羽澤慎治(慶應義塾大学)6-3  竹島駿朗(TEAM REC)

・コンソレ準決勝
岡村一成(橋本総業HD)6-3 羽澤慎治(慶應義塾大学)
藤原智也(慶應義塾大学)6-4 竹島駿朗(TEAM REC)

 

関口周一は待望の全日本のタイトルへ向けて試合後すぐに練習するなど、調整に余念がなかった

9月の遠征ではITFでコンスタントに高い成績を残した田沼諒太

 

取材・写真/保坂明美