東洋館出版社主催の「『コートサーフェス研究』発売記念 無料オンラインイベント」が1月10日に開催された。これは2017年に引退した伊達公子さんが、2度目の現役時代より問題提起していたテニスコートのサーフェスについて、自身が行った調査・研究を1冊にまとめた書籍、『コートサーフェス研究 砂入り人工芝ではトップテニスプレーヤーは育たない』が12月8日に出版されたことに伴うもので、(公財)日本テニス協会常務理事の坂井利彰氏をファシリテーターに迎え、日本のコートサーフェスについて語り合った。

冒頭では伊達公子さんが「世界で戦うにはハードコート、クレーコートのハイブリッドが理想なのに、なぜ日本は砂入り人工芝が主流になっていくのかと感じていた」と、この研究のきっかけを語る。その中には、海外で育たなければトップは生まれないという状況ではなく、日本で活動していても世界で戦える選手を育てる土壌を作っていきたいという思いがある。

砂入り人工芝ではボールの弾道が低く、砂の量によって失速したり速くなったりとムラがある点や、スライドした後、切り返して戻ることが難しい点、ハードやクレーと異なりステップの踏み方にバラつきが生じる点などについて指摘する。しかし、雨が降った時に効率良く試合がこなせる点など砂入り人工芝が普及した理由についても言及し、それを踏まえた上で「それがハードコートのデメリットにつながるかといえばそうではない」とし、「理想はインドアハード。しかし、改修はお金がかかる問題なので、少しずつでも働きかけていきたい」と語る。

その一環として、2027年に国体(2024年より国民スポーツ大会・国スポに改称)開催予定の宮崎県へ訪問し、ハードコートへ改修する要望書を日本テニス協会、宮崎県テニス協会とともに提出した。坂井氏も「こういったことは日本テニス協会としても積極的に行っていきたい」と、取り組みとして力を入れていくようだ。

また、「いろんなことをスポンジのように吸収できる時期」として高校のハードコート1本化を提唱した。現在のジュニア世代は、アカデミーと高校テニスという2極化している現実に「なぜ2つに分かれてしまう必要があるのか?」と問い、全国選抜の個人戦優勝者に全米オープンジュニアの予選ワイルドカードが与えられることにおいても、「全米はハードコート、それを砂入り人工芝で決めているのは不思議です」と疑問を投げかけた。

さらに足腰への負担があるという声には「以前の硬いコートのイメージがそのままあるように思えるが、現在は何層にもなる構造で、クッション性の高いハードコートもある」と、技術の進化を訴える。

「高校の部活の先生や、指導者、経営者の多くの方に知ってほしい」

著書では日本から強い選手を出したいという思いと、次世代のジュニアが世界で戦うために必要なことが記されている。

1995年前後には日本で育った女子選手が、5人以上グランドスラムに出場していることは当たり前だった。アメリカを拠点にした錦織圭、大坂なおみが活躍する現在だが、未来のテニス選手のために、日本のテニス界がやるべきことの一つにこの“サーフェス問題”があるのではないだろうか?

日本テニス協会常務理事の坂井利彰氏(左)と、著者の伊達公子さん(右)

『コートサーフェス研究 砂入り人工芝ではトップテニスプレーヤーは育たない』
伊達公子著
価格:2,530円(税10%)
発行元:東洋館出版社
https://toyokanbooks.com/products/4546