今月はダラスとデルレイビーチ後のアカプルコATP500から振り返ります。

連戦が続いたため、疲れを回復させつつ、コートと気候に早く慣れようということで、良仁と僕はすぐにメキシコ・アカプルコに移動し、調整を開始しました。日差しと暑さで、日中に試合が入らないことは最初からわかっていたので、まずは体調と、身体のリズムを夜型に変えることからスタートです。

朝はゆっくり起きて、あえて夜遅くまで起きていたり、夕方5時や、夜7時に練習を入れました。夜は意外と涼しくて、気温は25度くらい。ただ湿気40%とか50%あるので、汗は普通に出ます。でも、日本の夏よりは、過ごしやすく感じました。

アカプルコにて、内田海智らと

 

アカプルコはATP500ということで、これまでの250より、またレベルが上がり、予選からのスタートとなりましたが、身体はいい準備ができたと思います。

また、サーフェスが跳ねるハードコートだったので、かなり後ろに下がらないといけないとか、自分から跳ねさせるボールを打たないといけないとか、そういった考え方を共有するとともに、ガットのテンションや、用具のチョイスなど、じっくり話しあいながら調整したので、体調的にもメンタル的にも非常にいい状態で試合に入れました。

予選を上がり、1回戦はフェリシアーノ・ロペス、2回戦はテイラー・フリッツとの対戦で、いずれも1stダウンからの逆転勝利でした。ロペスは左利きからのサービスや、スライスからネットアプローチなど、ちょっとオールダーですがオフェンス重視、フリッツもビッグサーブとビッグフォアのオフェンス主体のテニスをする選手です。跳ねるサーフェスの特徴から、良仁はディフェンシブなプレーなので、相手よりも不利な状態から入ること、リターンなどを合わせるのに、時間がかかったというのがその理由です。

テイラー・フリッツに勝利したのは大きな自信に

 

 

でも、セットを落としてはいますが、この時間帯、いい集中で相手の情報収集ができました。1stセットを最大限に使い、相手の嫌なところ、苦手な部分を探し、2nd以降で、それを実践していく。ファイナルまで持ち込めば、チャンスがあるという自信を持って戦えていたと思います。

この2試合は、彼の頭の良さがすごく出ました。世界的にはテニスのスタイルとしてオフェンス重視になっていますが、良仁のテニスは、ディフェンスを主体として、その中でネットアプローチをしたり、間を詰めたり、球種のバリエーションや、コントロールの良さを使うテニスです。ミス待ちではない耐えるテニスで、相手の情報を得て攻略し、最後は自分から攻めて封じるという、彼のテニスIQの高さと、思い切りの良さがミックスされた試合でした。

メドベージェフがとった作戦は?

準々決勝では、翌週のランキングで1位になることが決まっていたメドベージェフとの対戦でした。

対戦相手となったので、どういうテニスをしようかと、良仁と話しました。良仁も僕も毎試合メドベージェフの試合を見ていたのですが、サービスはいいし、何よりもミスする気配がない。1回戦も2回戦も、相手が先に打ち切ろうとして負けていたことから、良仁が「メドベージェフを相手にして打ち切って勝つイメージは湧かない」と言うので、僕は「だったら逆に打ち切らないテニスをして、メドベージェフがどう攻撃してくるのか試してみよう」という結論になりました。

良仁は、バックのダウンザラインや、相手のバック側にループ状の高いボールを入れていくなど、かなり長いラリーの展開になっていました。僕たちは相手がどんどん入ってプレーしてくるのを待っていたのですが、試合が終わって良仁が言っていたのは「逆にボールが遅かった」ということです。

こちらが遅い展開に持ち込む作戦だったのに、メドベージェフがさらに遅いペースでラリーをしてきたのです。

やっぱりそうなると、良仁は打ちたくなってしまう。試合後、「あの展開になると、誰でも打ちたくなっちゃうし、もうこの体力ではもう打たざるを得なかった」と言っていました。予選を上がっての準々決勝だったので、確かにそうでしょう。

コーチとしては、メドベージェフは面白い戦略をとってきたというのが感想です。良仁みたいな選手を相手に、より打たないという選択をしてくるとは、面白い発想です。

メドベージェフの意外な戦略はコーチにとっても面白く、勉強になった

 

今回の試合で得たものとしては、世界ランク1位になったばかりの選手と、打ち合って勝負ができたことです。「体力があればもっとできた」と良仁も言っていましたし、僕自身もうまくやればセットを取れそうだと思って見ていました。

また、全豪も含め、ツアーでなかなか勝てていなくて、非常に落ち込んでいた中、ATP500でベスト8に入り、しっかりトップとやりあえたのは、自分がやっていることが間違いではないことを理解でき、またやるべきことが明確になったと思います。

「メドベージェフだったら、タイプ的なところも含めて、いける可能性がある」と良仁は言っていました。こういうことを口にすること自体、とても良い状態にあることの証です。

こういう根拠のない自信じゃないですが、なんとなく自信がある状態、これを取り戻せたのは良かったし、モチベーションも上がったと思います。

インディアンウェルズはすでに終了していますが、マイアミが近づく中、やっぱり本戦で勝ち進みたいと思っています。そのためには、自分のテニスに自信を持つこと、それと今課題として取り組んでいるネットプレーを強化することが必要です。

ディフェンス主体でうまく相手や、その変化に対応していけば、勝てるとはいっても、やはり本当にトップになってくると打ち込まれてしまいます。オフェンス力が優っている時代なので、良仁も自分からポイントをとりにいくことを磨かなければいけません。その手段としてネットプレーが必要不可欠です。

練習ではほとんど毎日それを取り入れていて、ボレーのフォームの見直しも含め、ネットへの出方などを課題として取り組んでいます。

アメリカのハードコートシーズンは相性のいい場所。ネットプレーの練習も毎日取り入れている

 

アメリカシーズンは良仁の好きなシーズンです。アメリカのファンの方々が、結構応援してくれますし、マイアミでは3回戦進出という結果も出しています。優勝も含め、この場所でキャリアの中で一番いい結果を出すことを目標に、また頑張ります。

 

西岡靖雄(にしおか やすお)

199310月8日三重県津市生まれ。父親が校長を務める「ニックインドアTC(三重県)」で、現在プロテニス選手となった弟の西岡良仁と共にテニスを始める。四日市工業高校、亜細亜大学を卒業後、ツアーテニスコーチとして活動を開始。西岡良仁のサポートとして、グランドスラムやツアーへの帯同、その他プロ選手のコーチングやヒッティング、ジュニア育成を行う。また、スペインのバルセロナにあるクラブチーム「CMC Competition」でコーチを務めながら、WTAトップコーチのCarlos Martinez氏に師事し、ツアーコーチング、スペインテニス、クレーコートの戦術について学ぶ。日本に帰国後、東京を拠点にツアーチーム「Project E.O」を立ち上げる。現在は西岡良仁の他、輿石亜佑美、坂詰姫野などの若手女子選手のツアーコーチも務めている。

写真/本人提供