今年から弟、西岡良仁のツアーコーチを務めることになりました靖雄です。スペインでのコーチ修行、そして女子選手のツアーコーチを経てきた経験を生かし、色々な視点でツアーの現状をお届けできればと思います。

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良仁は昨年手首を故障し、インディアンウェルズ以降、休養に充てていました。彼の持ち味であるバックハンドで右手首の痛みが出たため、それがなくなるまで回復に務め、12月は上半身のトレーニングにかなりの時間を割いていました。

トレーニングは今後のテニスのために、ショットを攻撃的にするためのもので、上半身や体幹のメニューを増やし、オンコートでもかなり強く打ち、自分から展開できる練習をしていきました。

今シーズンはオーストラリアからスタートしました。復帰は全豪の前哨戦であるアデレード1から。そこでクウォン・スンウにかなり痛い負け方をして、いきなり大きな壁に当たりました。

僕らの立てた目標に①キャリアハイランキング ②グランドスラムベスト16 ③2度目のツアー優勝 というものがあります。それを目指しスタートしたところで、厳しい敗戦をしたので、その後のミーティングは、かなり深く、はたから見たら兄弟ゲンカと思われるくらいの話し合い、というか言い合いをしました。

僕自身は選手のコーチを経験してきて、「言葉」をとても大切にしています。伝える加減やタイミングについて慎重に行っており、伝えすぎてもいけないし、伝えなさすぎてもいけない。それをいつ言うかも大切だと思っています。そういったところで良仁の求める部分との食い違いがあり、その点にかなりの時間をかけました。

その中でこの2年が勝負だということもありました。それは2年で引退するということではなく、立てた目標において、どこか期限を決めないと、頑張る方向へ自分を持っていけないという思いが彼の中にあってのことです。2年後も高いランキングを持ち、出られる大会があれば、きっと続けていると思います。

負けが続いていた中、チームとしてお互いの感情を思いっきり伝えられたことは良かったと思います。だからこそ今は本人も割り切ってやっていて、そのために必要なコミュニケーションだったと思います。

昨年後半は手首の故障で休養しましたが、今は痛みなく打てています。

 

今回は、かなり長期の遠征となりました。全豪オープンの敗退後、ランキングが下がったので、すぐにアメリカに渡り、チャレンジャーに出場しました。結果は2大会連続で決勝へ進出し、1大会優勝、1大会で準優勝でした。いつもならすぐ日本に帰ってくるところですが、このままマイアミオープンが終了するまで戻らない予定です。

チャレンジャーで良い成績だったのは、まず、全豪の後、ストリングを変更したことです。手首を故障したので、より反発のいい飛ぶストリングにしていたのですが、それによって微妙なコントロールに影響が出ていたので、再度変更しました。

また、技術的な部分では、まずサービスの確率を70%くらいまで上げることを意識させました。トレーニングのおかげで速いサービスが打てるようになっていたのですが、それによって確率が下がり、フラストレーションが溜まっていくという悪循環になっていました。まずはそのストレスを軽くしないと、戦術が考えられなくなり、彼の持ち味である試合の組み立てに影響が出るので、「エースは諦めろ」と言いました。

ツアーでサービスを武器にする選手は、入るか入らないかの部分において、いい意味で諦められるメンタルを持っています。入らなければ仕方ないと思えずに、イライラして本来のテニスができなくなるくらいなら、良いメンタルで戦えるくらいのサービスを打つようアドバイスをしました。

オフェンスラインを上げることに取り組み、下がらずに前でプレーすることにも挑戦していますが、その部分においても先にミスをするくらいなら、自分の気持ちいいエリアで戦うことも時には必要です。コロンバスのチャレンジャーで綿貫陽介と初戦で当たった時には、良仁自身も不安はあったようですが、そこで勝ってからは、戦い方を思い出し、優勝まで突き進みました。

全豪後、コロンバスのチャレンジャーで優勝しました。少しずつ良くなってきているので、また前を向いて頑張っていきます!

ATPツアーに戻ったら、再度どうすればいいかということになりますが、良仁はコーチの僕に「見ていてどうだったか、もっと教えてほしい」と言っていますし、皆さんが思っている以上に、彼は人の話が聞ける選手です。

もちろん、全豪オープンでの彼の姿は良くないものでした。それは、一人のコーチとしても、家族としても許せたものではありません。負けが続いたり、故障もあれば、試合の勝ち方を見失い、不安な気持ちに陥ることが選手にはあることも理解しています。

ですが、そことどう向き合い、乗り越えていくか、明日もまたコートに向かうしかないのです。

今はチャレンジャーの出場によって、少しずつ自信を取り戻しているところですので、僕も良いサポートができるよう、最大限努力していきたいと思っています。

 

●西岡靖雄(にしおか やすお)

1993年10月8日三重県津市生まれ。父親が校長を務める「ニックインドアTC(三重県)」で、現在プロテニス選手となった弟の西岡良仁と共にテニスを始める。四日市工業高校、亜細亜大学を卒業後、ツアーテニスコーチとして活動を開始。西岡良仁のサポートとして、グランドスラムやツアーへの帯同、その他プロ選手のコーチングやヒッティング、ジュニア育成を行う。また、スペインのバルセロナにあるクラブチーム「CMC Competition」でコーチを務めながら、WTAトップコーチのCarlos Martinez氏に師事し、ツアーコーチング、スペインテニス、クレーコートの戦術について学ぶ。日本に帰国後、東京を拠点にツアーチーム「Project E.O」を立ち上げる。現在は西岡良仁の他、輿石亜佑美、坂詰姫野などの若手女子選手のツアーコーチも務めている。