予選決勝で起きたマッチポイントからの逆転劇

テニスの試合では何が負けにつながるか、何が勝ちにつながるか、コーチをしていてもわからないことがあります。インディアンウェルズとマイアミの2大会を終えましたが、改めてその思いを味わいました。

まず、インディアンウェルズは、本戦に上がることはできませんでした。良仁曰く、ボールが飛びにくく、予選決勝で対戦したククシュキンの低いボールが持ち上げられなかったそうです。大会ごとにサーフェスとボールが異なる中、調整していくことは簡単ではなく、そういう要因で結果が出ないこともあります。

マイアミオープンにて望月慎太郎と。

マイアミは結果として3回戦へ進出しましたが、この大会では、予選決勝で対戦したクリストファー・ユバンス(アメリカ)にマッチポイントを2本握られるという窮地に立たされながらも、逆転勝利した試合が本当に大きかったと思います。

ユバンスは、身長も2mを超え、ビッグサービスとビッグフォアで相手を追い込む、アメリカ人プレーヤーです。良仁よりもランキングが下ということで、相手からしたら思いきりぶつかってくるわけで、立ち上がりから飛ばしてきました。特に回り込みのフォアがパワフルで、正直手がつけられなかったと言っていいでしょう。

2-6、2-5とリードを許し、15-40のマッチポイント2つ。

僕も内心「終わりかな、負けてラケット折るかな? でもラッキールーザーがあるから全部は折らんでくれ」と願っていたほどでした。

しかし、ここからが、今回の遠征で目標にした「諦めない」ことにおいて、良仁が本当に一番頑張った場面だったと思います。

相手としてはもう勝利に指先がかかった状態なので、早く試合を終わらせたい気持ちが大きかったと思います。良仁はとにかく相手に打たせ続けました。1本でも多く返す、我慢のテニスです。相手も焦りでミスが出て、それがサービスブレークにつながりました。

そこから大きく流れが変わりました。

試合後に「相手の打ってくる場所はわかっていた」と良仁が言いましたが、確かにそのとおりでした。基本的にバックはクロス、回り込みフォアは逆クロスとコースが明確でした。ただ、マッチポイントまで相手はとにかく勢いがあったので、パワーで勝つことができなかっただけなのです。とにかくサーブを返してラリー戦に持ち込めば、イズナーと対戦した時のように、優位に立てるのは良仁の方です。

流れが変わってからは、ユバンスはポイントが競ると全く打てなくなりました。勝ちビビリの状態です。何をすればいいのか、どんどんわからなくなっていったのではないでしょうか?

結局、2-6 7-6(1) 6-1で勝利することができました。この勝利があったからこそ、本戦の1回戦、エミリオ・ゴメス(エクアドル)、2回戦のダニエル・エバンズ(イギリス)にも勝つことができたと思います。

サービスキープ率がとても高く、良い試合ができています。

 

ハリス戦は、ほんの1本が勝敗を決めた

3回戦のロイド・ハリス(南アフリカ)戦では、僕たちにとって目標がありました。それは「バックハンドを取り戻そう」というものです。

良仁は昨年8月のシンシナティで手首を故障しましたが、その時の対戦相手がハリスでした。そこから痛みが続く中参戦しましたが、11月にツアーを切り上げ帰国し、年末には回復しても完全には戻っていませんでした。そして実戦を積んでいく中、このハリス戦で、完全復活を遂げようと話していたのです。

ハリスはサーブがクイックでコースが読みにくい選手なので、ブレークするのは簡単でないことはわかっていました。ただ良仁もサービスが良かったし、ずっと練習を重ねているネットプレーも効果的に混ぜながら、サービスキープをしていました。バックハンドも良く、展開、ウイナーの取り方ともに今年で1番のバックハンドでした。

第1セットはタイブレークでハリス、第2セットはワンブレークで良仁という展開になり、進んだファイナルセットは、良仁の方にチャンスがありました。今回の試合、4-4の2つ目のブレークポイントで、ハリスがサーブから回り込みフォアを打った時、アウトの軌道を描いていましたが、風の影響でコートに戻りインになったのです。今回の試合でこのショットが勝敗を分ける大きな1ポイントになりました。

結局ハリスが6-5で訪れた、たった1本のブレークポイント(=マッチポイント)をものにし、良仁は結局試合は負けましたが、この試合を通してサービスブレーク1つだけ、トータルポイントでは6ポイント上回っていながらの敗戦でした。

試合中は勝敗を決めるショットは何かわかりません。諦めない気持ち、風のいたずら、1本のウイナー…試合が終わってから思うその場面を取り逃さないよう、選手は練習を重ね、コーチは指導するのです。

初めての3か月間の遠征は、良仁のテニスがどういうテニスをしていたか、思い出すものになりました。

良仁にとって初めてとなる、3か月間の長い遠征は、自分がいい時に自分はどうしていたか、ということを思い出す戦いとなりました。さらにネットプレーでは、グリップを見直したり、組み立てを考えたりと新しいことも取り入れています。

4月末からは、全仏までクレーコートで戦います。昨年は前哨戦の調子が良く、全仏で疲れてしまったので、今年はしっかりピーキングできるよう、戦っていきたいと思います。今までできなかった3回戦進出を目指し、頑張ってきます!

 

西岡靖雄(にしおか やすお)

1993年10月8日三重県津市生まれ。父親が校長を務める「ニックインドアTC(三重県)」で、現在プロテニス選手となった弟の西岡良仁と共にテニスを始める。四日市工業高校、亜細亜大学を卒業後、ツアーテニスコーチとして活動を開始。西岡良仁のサポートとして、グランドスラムやツアーへの帯同、その他プロ選手のコーチングやヒッティング、ジュニア育成を行う。また、スペインのバルセロナにあるクラブチーム「CMC Competition」でコーチを務めながら、WTAトップコーチのCarlos Martinez氏に師事し、ツアーコーチング、スペインテニス、クレーコートの戦術について学ぶ。日本に帰国後、東京を拠点にツアーチーム「Project E.O」を立ち上げる。現在は西岡良仁の他、輿石亜佑美、坂詰姫野などの若手女子選手のツアーコーチも務めている。

写真/本人提供