元プロテニスプレーヤー、吉冨愛子。29歳。幼い頃から没頭した競技生活に終止符を打ったのは3年前のこと。そんな彼女が今年2月に立っていたのは、ウガンダ共和国の小さな町、Mpigi(ムピジ)のコートだった。
きっかけは、ひょんなことだった。友人から「面白い子たちがいる」と送られてきた1本のSNS動画だ。それは、日本から11,468キロ離れたウガンダ共和国で活動する『Tennis For All Uganda』の子どもたちだった。石ころが残るテニスコートに、毛玉のように膨らんだボール、靴を履かずにテニスをする子もいる。それでも一生懸命にボールを追いかける姿に、吉冨は強いエネルギーを感じた。
『Tennis For All Uganda』はスラム街や農村で暮らす子どもたちに、テニスを通じてライフスキルを高める環境として作られた、教育プラットフォームだ。貧困からドラッグや犯罪に手を染めてしまう子たちを減らすため、様々なプロジェクトに取り組んでいる。
学校に行けない子どもたちを受け入れ、テニスをはじめコンピュータ操作や裁縫の授業を提供する。将来起こりうるに出来事に立ち向かうために必要な、ライフスキルを身につけさせることを目的としている。
設立者の一人であるジュリアス・キョーベは「テニスを社会発展のツールとして活用し、若者のエンパワーメントを図りたい」と話す。数多くあるスポーツの中、何故テニスなのか? その答えは、自身の体験が背景にある。
「私はスラム街出身で、とても貧しい家庭に育ちました。テニスを始める前から学校に通ってはいましたが、テニスを始めたことで多くのチャンスが広がり、スポンサーを得て大学で土木工学を学ぶことができました」
彼にとってテニスは、楽しさと喜びのなかでリーダーシップや規律を育むことができる世界だという。またスポーツや遊びを通じた社会的交流が、より幸せで健康的な子どもたちや若者を生み出すと答えた。
「私たちはスポーツと教育が子どもたちの成長のベースになると信じています。少年少女に安全な場所を提供し、男女関係なく学ぶ機会を与えたい。かつて私がテニスをきっかけに大学へ行く機会を得たように、彼らを支援したいと思っています」
いまでも停電が起きれば数日は復旧しない環境下でも、彼らの声は日本に住む吉冨に届いた。インターハイと全日本学生の冠を持つ吉冨だが「テニスで大学に行ってなかったら、国際教養学部を選んでいた」と語る彼女にとって、心の奥で何かが繋がった瞬間だったかもしれない。
「いまできる限りの援助をする」と運べるだけの物資を手に、単身ウガンダに渡航した。到着後、用品を手に子どもたちと触れ合う中、「彼らは私たちより物資的な持ち物は少ないかもしれないけれど、私たちにはない心の豊かさを持っている」と感じたという。
「現地で彼らと過ごしてわかりました。人間にとってスポーツは、心身共に健康でいるための大事な要素。これまで競技に没頭するあまり、勝利至上主義だった自分にとっては、その価値を見直す機会になりました。彼らにとってテニスが人間形成に役立ち、また一つの手段としてチャンスを掴むきっかけになってくれたらうれしい。私の場合、いつだってテニスが世界へと連れ出してくれた。ウガンダは公用語が英語ということもあり、もしかしたらアメリカの大学へ行くチャンスだってあるかもしれない。そのためにも教養を身につけるために必要な物資をはじめ、新しいテニスコートを作るお手伝いをしたいと思いました」
ジュリアスは吉冨について「私たちは様々なスキルを持った人を世界中に求めているなか、アイコは元プロテニス選手で輝かしいキャリアがある。スポーツをする機会が無い農村部の少女たちに、スポーツで成長することを促す力を持つ素晴らしいロールモデルだ」と評している。
吉冨は今後も現地での支援を続けるため、現在クラウドファンディングに挑戦中だ。集まった資金は、子どもたちの日常の衣服や教育に必要な物資の調達、そして団体が持つテニスコートの環境整備に使われる。
クラウドファンディングは、5月24日まで。目標の300万円を目指し支援者を募集中だ。
↓クラウドファンディング詳細
ウガンダの恵まれない地域の子供たちをテニスを通して応援したい! (rescuex.jp)
取材・文:久見香奈恵(元プロテニスプレーヤー)