全国中学生大会、MUFG全国ジュニアで優勝という実績を収め、全仏、ウインブルドンジュニアに出場するなど、高い実績を携え、18歳でプロ入りした長谷川愛依(めい)。彼女の姿は2023年1月、「チームサテライトさくら野火止」の練習コートにあった。
「最後まで軸をブラさずに」
「フォロースルーが低い、もっと肩まで」
「前に入っているから縦の回転をかけないと」
「そう、合ってる、大丈夫!」
長谷川のテクニックを細かくアドバイスをするのは、太田茂氏だ。1月から技術的な面でのサポートを担当している。
祖父母、両親ともにテニスを楽しむ、まさにテニス一家に生まれた長谷川は、生活の中にテニスがあり、始めたのも自然だった。しかし、幼少期は水泳、バレエも習っており、とりわけ水泳においては、幼稚園の年長で200m個人メドレーを泳ぎきるという才能を見せた。
週5回で通っていた水泳から、テニスをメインにした理由は、「小2で初めて試合に出たのですが、そこで勝ったことが嬉しくて。水泳は1人でタイムを競うものだけど、テニスはゲーム。相手からポイントを取るために組み立てたりすることが本当に楽しかった」からだ。
小学5年生からは全国大会にも出場し、ジュニア時代の実績は前述したとおり。プロになるという選択も、自然な流れだった。
しかし、1年目のスタートで、長谷川は大きな壁にぶつかる。
「思ったような結果が出なくて……、プロの洗礼を受けたという感じです」
言葉では簡単だが、状況は深刻だった。もちろん、最初から良い結果が出るとは思っていなかったが、それよりも自分が目指しているテニスを変えたことが大きな要因だった。
「自分は前で攻めて最後はネットへつなげるという組み立てでポイントを取るのが好きだったのですが、後ろで回転をかけるテニスに移行したことで迷いが出ました。やりたいテニスとやらなきゃいけないことのバランスが取れず、そんな状態だから、コートに立ってもうまくいかない。楽しくなくなってしまいました」
うまくいかずとも心が健康であれば、大きなダメージにはならなかったのかもしれない。しかし、「楽しくない」という心理状態が、体調不良にもつながった。
「テニスを辞めることも考えた」という状態から、コートに戻ろうと思ったのは、ご両親の支えがあったから。何度も話し合い、再スタートを切ることに決めた。
太田氏の指導を受けることになったのは、高校時代、技術の指導を数回受けた経験があったから。
「コーチはフォームが崩れても自分で修正できるような指導をしてくださるので、そこがいいです。今はニュートラルスイングを作っていくこと、海外選手と戦うために、コンパクトなスイングで相手の力を利用することなどを学んでいます」
長谷川の実力を太田氏も評価している。
「本来持っている技術は高いし、聞く耳もあります。真面目な性格で、正しいスイングをしているのに、アウトすると納得できないこともあるので、今は、結果よりも間違ったことをしていないか、ということを重視しています。私ができることは、1人で遠征を回っても、自分で修正できるフォームに整えること。彼女の性格に合ったプレースタイルに必要なショットを強化していくことです」
春頃までに身体と心、そしてテクニックをフィットさせていくことを考えている。
長谷川自身も「まずは勝ち負けにこだわりすぎず、楽しんでプレーがしたい」と語り、今年は国内のITF大会を中心に転戦する。
目指すところは、「予選、本戦も含め、グランドスラムに定着する」こと。同じ木曽川ローンテニスクラブ出身の日比野菜緒のような選手が目標だ。
「プロ1年目という気持ちでやっていきたいです」
再スタートを切った長谷川のこれからに注目したい。
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